誰かの何か
朝早く、母からの電話で起こされた。今日はお休みだから時間を気にせず、いつまでも寝ていようと思っていたのだけど・・・甘かった。電話に出ると母は何が嬉しいのか笑いながら、「 会いたいんだけど行ってもいい?顔が見たいなって思う。」って言った。私はまだボンヤリした頭で、顔が見たいって言ってくれる人が一体この世の中に何人いるんだろうって考えた。殆どいない。
これはおいでって言うしかない。笑
暫くしてやって来た母は玄関で愛犬ちぇるの熱烈歓迎の儀式に応え、私の顔を見て、「 ごめんなさい。」って言って頭を下げた。「 今日は朝からどうしたらいいか分からなくなって。これからどうして生きていけば良いのか分からなくなって。誰の何の役にも立てなくなってしまって。どうしたら良いだろう。」って。
母に温かい紅茶を入れた。お土産の甘いお餅を食べさせた。チョコレートやビスケットも食べさせた。「 美味しい?」「 うん。美味しいね。このお餅、ほっこり甘くて美味しい。」「 そう?良かった。甘い物は誰も食べないからいつまでも残ってしまって。食べてもらえると助かるわ。」「 あら、そうなの?食べてあげるよ、甘い物は大好き。」「 じゃ、これも食べて。」
今川焼きを母は、「 あら、ほっこりしてて美味しいね。」ってペロリと食べた。「 役に立ってるじゃない?残ってる甘い物、全部食べてくれるもん。」
「 えぇ〜、そんな事で良いの?」
そんな事で役に立つって言ってもらえるなら全部引き受けると言って母は大笑いした。母の好きなのど自慢が始まった。母はそっと私の横に来て、優勝者が決まるまで肩を揉み続けてくれた。
私も出来るかな。80歳になった時、誰かの役に立てるかな。顔が見たいって、素直に誰かに言えるかな。何の役にも立てなくなったって、正直に話せるかな。まだまだ生きて行かないといけない・・・