娘
台風21号が西で猛威を振るったと思ったら今度は北海道の地震と、大きな災害が次々と日本を襲っています。いつそれが自分の身に起こっても不思議ではありません。被害に遭われた方々に1日も早く元の生活と心の安定が戻りますようにとお祈りしています。
先週から私は母の持ち物整理を始めました。まさか私がこんなにも母親の持ち物を触ることになるなんて思ってもみませんでした。母はいつまでも元気でいるものだとずっと思っていました。お恥ずかしい話ですが私は母の名前が本当は難しい方の字だった事をほんの数年前に知りました。賢くしっかり者の姉が亡くなり出来の悪い私が残ってしまうなんて、母はどんなに不安だったことでしょう。
少し前に真矢みきさんが痴呆症のお母様の事を書いている文章を読みました。お母様が真矢みきさんを娘だと認知出来なくなったという短い文章でしたが、娘としての辛さがよくわかって読みながら泣いてしまいました。私も母に、「他の事は全部忘れても大丈夫。だけどどんな事があっても私だけは忘れないように。」と声を掛け続けてきました。母はホッとした顔をして嬉しそうに、「 そう?忘れても大丈夫?あなたは私の娘!それは絶対に忘れません。」
でもそんな遠くないいつか、きっと母は私も忘れるのだろうと思っていました。
数週間前、母を訪ねた日。私を見て母はこの人は良く知っている人だけど誰だったかな?という顔をしました。親そうに話はしていましたが母は最後まで1度も私の名前を口にしませんでした。私も母に私が誰だかわかってる?とは聞けませんでした。それはあまりにも突然にやってきて、現実を受け入れる勇気が私にはありませんでした。母に忘れられる辛さはどんな言葉に置き換えることも出来ません。
娘に手伝ってもらいながら母の洋服の整理をしていたら見覚えのあるスーツが出てきました。それは昔、私が母にプレゼントした物で母はよくそれを着てお友達と出掛けていました。「もうおばあちゃん着ないよね。」ってゴミ袋に入れて。
整理が終わる頃、私の気持ちも吹っ切れた気がしました。
私なんか忘れて良いし、忘れられたって母と私は何も変わらないんだし。
それよりしっかり最後まで頑張って。
痛いところがないと良いね、知らないうちに逝けたら良いね、お母さん。
娘としてそれだけを願ってるよ。