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母の説明文

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母の説明文

母・城ヶ崎にて

母に長い手紙を書きました。母は何かというと直ぐに手紙を書く人で、大学で自宅を離れた私の元にも月1ペースで送ってきていました。書き出しはちゃんと食べていますか?とかお友達とは仲良く出来ていますか?で、中身は父と自分の暮らしぶりについて、締めは元気で頑張る様に大体いつもこんな感じの変わり映えしないものでした。手紙を送っておいて直ぐに、「手紙送ったんだけど届いてる?」と確認の電話をしてくるのですから、青春時代を謳歌中だった私は最初から電話で良いのにと何度思ったかしれません。

母がどんどん私を忘れていきどこかの親切な人だとしか思わなくなった今頃になって、私は無性に母に手紙が書きたくなりました。今更、何を書いて教えようというのか、母はもう文字は読めても内容は理解出来ないかもしれないのに。それこそ何を今更なのですが。

書いた手紙を母に手渡すと母は、「手紙?私に?今読んで良いの?」って10代の女の子みたいに喜んで、丁寧に封を切り便箋を開くと声に出して読み始めました。私の書いた手紙は手紙というよりまるで母の説明文で、母は途中で何度も、「どうしてこんなこと知ってるの?」と聞いてきました。母が父の事業を手伝って一生懸命働いていた部分になると、「 そうだった。あの時は大変だった。楽しかったけどね。」と言って笑いました。最後まで読み終わると、「 ちょっともう1回読んでみようかな。いい?」と言って結局母は3回も読み返し、「そうそう。あの時は大変だった。楽しかったけどね。」って。

翌日、母がお世話になっている施設を訪ね陰からそっと母を見たら、ミッソーニを着たおばあちゃまと何かの話で盛り上がっていて、「そんなことしたら蹴っ飛ばされるわよ。」って2人で大笑いしてる。こっそり母の個室を覗いてみたら昨日の私の手紙がテーブルの上にポツリ。昨日、私がそこに置いて帰った。そのままの状態で。

母は今を生きてるんだ、小さな子供のように。人の心配ばっかりしてないで、あなたはあなたの事を一生懸命やりなさいよって言われた気がした。

小さな私の手を引いて前を歩いていた母に突然置いていかれたようで、寂しくて・・・